需要が多様化するヘルスケア施設

―高額帯はエリアニーズ獲得と認知度向上が鍵

ヘルスケア施設市場では、建築費の高騰および人材確保難から開発・運営各社の工夫が続く。その1つが都心を中心に進む高額帯施設の開発で、KPMGヘルスケアジャパンがまとめた資料によれば、民間事業者が多く開発を進めてきた中価格帯(月額利用料金35~40万円)施設の成長率が鈍化する一方、高額帯(同50~60万円超)の介護付き施設は比較的高い成長率を見せている(2021年12月末時点)。2022年11月に「チャームプレミアグラン御殿山弐番館」が竣工した三菱地所レジデンスの髙木剛執行役員は、「富裕層に対して高額帯施設の認知が足りておらず、都心施設の開発余地はまだある」と指摘する一方、「仕様、サービスなどの細分化が進み、エリアの需要を的確に捉えた開発がさらに重要性を増している」と開発難度が上がっている現状も述べる。

 「御殿山弐番館」(東京都品川区北品川6-6-38)は、JR品川駅から徒歩12分に立地。敷地面積2204.19㎡(666.76坪)、RC造地下1階地上3階建て、延床面積4397.04㎡(1330.10坪)。運営者はチャーム・ケア・コーポレーション。総居室37室、介護付有料老人ホームとしてはかなりゆったりした34.67~80.25㎡の居室面積を確保した。部屋タイプによって2人入居が可能。豊かな共用部と傾聴に優れたスタッフを配置するなどホテルライクな生活を提供する。利用料金は月額利用料金を30万円台後半~50万円前後に抑えた場合、5000万円台後半~1億3000万円超の前払いが発生。15~18㎡といった居室面積を想定し、当初は60室以上の開発を予定していたが、周辺開発の状況から広い居室を確保し自立を含む混合型として特徴を出した。同物件はすでに売却済みで、売却時の稼働率は約30%。満床まで3~4年を見る高額帯施設では順調にリーシングが進む。

 ヘルスケアアセットは、オペレーターと長期にマスターリース契約を結び安定的な賃料を収受できる点から、ポートフォリオに組み入れたい投資家は多く、足元のNOIキャップレートは3%台半ばまで低下。なかでも高額帯施設は立地の良さ、施設仕様の充実度から投資家の人気は高く、足元で開発側から見た出口の心配はない。一方、与信の高いオペレーターであっても、高額帯施設に入居する富裕層の要求は多岐にわたり、立地だけではない需要にコミットできなければ順調な運営は望めない。業界全体ではホスピスや特定疾患への対応など施設の細分化が進んでおり、開発各社はすでにコミットを始めている。安定的なキャッシュフローにつながる要因をどこに見るのか、同市場における投資家の目利きは一段の進化を求められる時が近づいている。

2023.09.01