過去最悪の熊被害、不動産価値にも影響

―熊のいる地域といない地域とで開き

 熊による人身被害が過去最悪の水準に達している。山間部だけでなく、都市近郊でも目撃情報が相次ぎ、襲われるケースが多発しており、住民の不安は高まる一方である。要因として、山林の荒廃、餌不足、温暖化による生態系の変化などが挙げられるが、根本的には人間と熊の生活圏が重なり始めていることが大きい。

報道では「軽傷」「命に別状なし」といった表現が使われることが多いが、実際には顔や手足に深い傷を負い、精神的なショックから日常生活に支障をきたすケースも少なくない。熊に遭遇しないことが何よりの安全策であり、山に入る際の注意喚起だけでは限界がある。
 究極の対策は、熊のいない地域で暮らすことともいえる。すでに熊被害が頻発する地域では、不動産価値に影響が出始めている。不動産の購入希望者は様子見に入り、観光客は減少するなど、地域経済に悪影響を及ぼしている。一方で、熊の生息域から外れた地域では「安全性」が新たな価値として注目され、不動産価格は安定している傾向がある。

熊のいない地域は、過去に駆除が行なわれていたほか、生息環境の変化によって定着しなかったという経緯がある。ただ、今後、対策が不十分であれば、熊の生息域は広がり、現在「安全」とされる地域も脅かされる可能性がある。

 不動産価値は、単なる立地や利便性だけでなく、「安心して暮らせるか」が問われる。熊のいる地域といない地域とでは、今後、不動産価値に開きが出ることが予想される。自然との共生を模索する一方で、現実的なリスクへの対応が急務となる。

2025.10.31