市場拡大へ共通理解醸成を図る
―金融庁、インパクト投資で初指針作成へ
金融庁は、社会・環境課題への効果と収益性を両立するインパクト投資について報告書をとりまとめ、初となる指針を打ち出す。2022年10月に設置したインパクト投資等に関する検討会では、計8回にわたり基本的意義や投資の要件などについて議論を重ねてきた。今回インパクト投資に必要な4要件を示すことで、黎明期・成長期である市場に共通理解を醸成する。一方、国土交通省は3月、社会的価値向上に資する不動産を“社会的インパクト不動産”と定義し、インパクトの設定・評価・開示の進め方のガイダンスを策定した。金融と不動産両面からインパクトに対する指針が示され、資金の好循環を目指していく。
グローバルのインパクト投資市場は、2021年には概ね3000~1兆億ドルの投資残高を保有。日本では最大5兆円との試算があり、成長可能性を期待する投資家は多い。一定の収益性を前提とする投資の効果に着目する手法として注目を高め、同じく市場が拡大するESG投資と比べて具体的効果を特定する点に特徴がある。効果と実現に対する戦略の明確化により成長性を評価し、創業企業や多排出産業に属する企業など、これまで資金が集まりにくかった領域に対しても投資資金の流入をねらう。
金融庁がインパクト投資の要件として定めたのは、意図、追加性、特定・測定・管理、新規性の支援という4点。投資の対象・主体・アセットクラスは限定しないものの、収益を想定しない寄附性が強い資金や、意図する効果が明確でない投資は射程外と整理した。具体的には、あらかじめ明確な意図を求め、効果と収益性が投資プロセスを通じ整合していることが重要。
また、意図と異なる悪影響など副次的効果についても考慮が必要とした。追加性では、非資金的な支援も通じ、投資が無い場合と比較して課題解決や企業価値向上に具体的な貢献を求める。特定・測定・管理については、継続性を重んじ、長期的な視点に立って事業者と投資家、金融機関は必要なデータを見極め、測定・管理を行う。収益性と効果が相互に補完・強化する関係性を創出するには、係るコストや時間を吸収するイノベーションが必要となる。こうした新規性は、中長期的な視座から潜在的可能性を引き出す支援や評価が下支えになると見て、金融庁は、関係者間の対話等を通じ能動的な取組みを期待するとした。
他方、不動産領域では、不動産に係る社会課題等を4段階・14課題・52項目に整理。評価指標の事例として、課題項目の解決を企図するアウトプット、享受できるアウトカム、そこに生じるインパクトを一連の流れとして捉えるロジックモデルの作成を提示した。実現に向けては、企業等と投資家・金融機関の対話=資金対話と、企業等と地域社会等の対話=事業対話の2側面が不可欠と置く。インパクトの意義や効果を具体化することでウォッシュに対する懸念を退け、適切な資金流入を後押しする姿勢が金融・不動産の両面から強まっている。関係者らの対話が共通理解を育み、市場拡大へとつながるのかに注目が集まる。
2023.06.30