個人が資本市場の果実を享受する未来

―金融庁、資産運用業高度化レポートを公表

 金融庁は、「資産運用業高度化プログレスレポート2023」を公表した。同レポートは2020年から年に1度発表されており、4度目。今回は資産運用業の信頼、運用の付加価値、および効率性向上への課題を中心に課題をまとめた。なかでも、資産運用会社が抱える諸課題のみならず、販売会社の信頼向上にも光を当てたことは新しい。その他、アセットオーナーの運用高度化、確定拠出年金(DC)を活用した資産形成に関しても言及した。足元では、2022年11月に政府が提起した資産所得倍増プランを実現するため、“貯蓄から資産形成”に向けた環境整備が進む。税制上の優遇措置などが有効に働くには、資産運用業が専門性と透明性を向上させ、広く国民から信頼を得ることが必要となる。金融庁は業界全体で目指すべき方向性を掲げ、現況との間に横たわる課題を投げかけている。

 企業・経済の持続的な成長を支え、資金の好循環を促すには資産運用会社の役割は極めて重要である。金融庁はこれまでの同レポートで、私募投信やESG投信等に対して状況をまとめ課題を提起してきた。今回のレポートでは、特に家計・個人の金融資産を投資へ振り向けるという視点が重要な論点として各項目に織り込まれている。資産運用会社に対しては、まず経営、運用体制、保有銘柄の透明性確保を求めた。大手資産運用会社は、グループ販売会社の営業手法によって、時に短期的利益が資産運用会社の長期的利益に優先されるおそれがある。懸念払拭のため、経営トップの選任理由や運用担当者を顧客に明示し、顧客利益最優先の体制であることを示す必要性を挙げた。保有銘柄に関しては、「情報が多すぎると顧客が混乱する」という考え方を排し、「デジタル技術活用により分かり易く、必要かつ十分な情報を提供できるよう工夫すること」を求める。2020年から一貫して盛り込むプロダクトガバナンスの強化については、取組みの進捗に差が開きつつある状況を指摘。業界全体では、商品特性に応じた顧客へ適切に販売する仕組みの強化が必要であるとした。

 他方、販売会社に関しては顧客の効率的な資産計画を支えるため、運用計画を継続的に支援する重要性を指摘した。実現する商品の1つとしてファンドラップを挙げ、顧客資産の成長によって金融機関の収入も増えるシステムの構築が必要である一方、単なるバランス型の投資信託かアドバイスを含むサービスなのかが明確でない商品など課題もあると述べている。より魅力ある商品提供のため、運用の付加価値についても論じた。アクティブ運用が持つ可能性を再度位置づけたほか、海外資産の運用力強化を図ることで、個人金融資産のグローバルな分散をサポートする。さらに、投資信託への非上場株式の組入れ可能性を挙げ、規制改正に向けて7月の意見募集実施を目指していく。一連の取組みを実行するにあたり、ネットワークシステムの寡占化など、足元で効率化や資産運用業への新規参入を阻害する要因も洗い出した。同レポートは、家計・個人が資本市場の果実を享受できる未来を見据え、資産運用業の信頼性向上に資する課題を網羅的に取り上げた。解決は容易ではないが、着実な取組みへ指針を示した意義は大きい。

2023.06.02