23年の売買仲介は消費マインドが鍵に
―「各社の取り組みで業績は変化」の声も

 日銀が昨年12月に発表した「長期金利の許容変動幅を∓0・5%へ拡大する」という金融政策の見直しは、今年の不動産仲介市況に影響を与えそうだ。6日に行われた不動産協会と不動産流通経営協会共催の新年賀詞交歓会では、物価高と海外の景気減速から不動産市況への影響を懸念する声も聞かれたが、企業や団体から「各社の取り組み方で業績が変わる年になりそうだ」との観測もあった。

 現在、住宅ローンを利用した住宅取得はフラット35など長期金利が影響する固定金利型ではなく変動金利型の利用が7割以上を占め、今回の日銀の政策変更がローンの月々の返済額に及ぼす影響は少ないとみられる。一方で、住宅ローンの負担が増すという報道が流れ、住宅市況の専門家から「実際の住宅ローンの計算は、そんな単純なものではない」と打ち消す声もあった。初春から気になる点は、実質的な利上げと取れる発表が消費者マインドにどのような影響を及ぼすかだ。これまでは、消費者のマインドに悪影響を与えかねない住宅価格の上昇をコロナ禍で顕在化した堅調な住宅ニーズが補い、仲介各社は好業績を維持していた。今後、いつかあるかもしれない短期金利の変動を見据えて、住宅の引き渡し時点から始まるため今なら低利で組める住宅ローンのメリットなどを訴求できれば、新しい需要の喚起も可能かもしれない。不透明感のある23年の売買仲介マーケットは、消費者のマインド喚起が重要な要素になりそうだ。

 「コロナ前の19年頃より、価格面でも良好な状態が続いてきたが、22年秋からは上値感が出始めている」と東京カンテイの井出武・上席主任研究員は話す。年末の金融政策の変更も市況の減速要因となり得るとして、「投資用を始め、1月の物件の売り出し量は注視する必要がある」と投資家層の素早い動きが局面変化の兆候になると指摘。アットホームラボの磐前淳子・データマーケティング部部長は、「上昇した物件価格でも購入できる資金余力がある層が市況を支えてきた」として、今後の動きを注視する必要性を挙げた。一方で、住宅ローンの専門家からは「市中銀行はまだ融資する際の姿勢を変えておらず、現段階では大きな影響はない」との声が聞こえる。いずれの専門家からも、年末の金融政策の変更より、春以降に発表されるはずの日銀の総裁人事と、それによって打ち出される金融政策のメッセージの方を重要と捉えている。

 大手仲介会社は、市況の変化を慎重に睨む姿勢を崩さない。三井不動産リアルティは、「不動産価格の上昇に対して、購入希望者のマインド低下」を傾向として感じ取っている。東急リバブルは、「急激な市況変化が起こる状況ではない」として、「今後の動向を注視し、市場拡大が期待されるエリアへの出店や市場ニーズの変化」を捉えていく方針だ。住友不動産販売は、コロナ禍以降、減少していた物件のストック数について「緩やかに回復しつつあり、市場の需給バランス改善の兆し」を見据えている。野村不動産ソリューションズは、「23年のマーケットは金融緩和が縮小されたこともあり、より注視する必要がある」とした。

 23年の不動産仲介業は、DX化の浸透も見据えている。全国宅地建物取引業協会連合会は22年秋に、全日本不動産協会は23年春に、それぞれ会員向けの業務支援ツールを強化。利用が広がるIT重説に加えて電子契約などについて、大手仲介各社も対応を進めている。専門家も「時代の要請でニーズは目立ってくる」との見方で一致しており、利用が増えるのは確実だ。

2023.01.27