
特別企画・不動産業2030 座談会(上)
最適活用目指し、高まる不動産業の役割
─コロナ禍で加速、変化する環境に対応
「令和時代の不動産最適活用」を掲げ、国土交通省が策定した「不動産業ビジョン2030」。コロナ禍で変容を迫られた不動産業だが、不動産業の現状や課題、展望をテーマに座談会を実施した。出席者は、赤羽一嘉・国土交通大臣、菰田正信・不動産協会理事長、坂本久・全国宅地建物取引業協会連合会会長、原嶋和利・全日本不動産協会理事長、馬場研治・全国住宅産業協会会長、山代裕彦・不動産流通経営協会理事長、塩見紀昭・日本賃貸住宅管理協会会長。
司会 本日は、不動産業の展望をお話頂きます。 赤羽大臣 不動産業ビジョン2030では、時代や地域のニーズに応じた「不動産最適活用」を不動産業の目指すべき大きな方向性として提案いたしました。賃貸住宅管理業法の制定、低未利用地の活用を促すための税制措置の創設などを着実に実現するとともに、既存住宅流通の活性化のための長期優良住宅の普及促進、所有者不明土地の円滑な利用や発生予防を図るための施策も進めているところです。新型コロナウイルス感染症の拡大により、国民の働き方、住まい方、ひいては価値観そのものが大きく変わることが予想される中、テレワークや二地域居住などへの期待が高まりつつありますが、こうした変化は、同ビジョンで掲げた不動産業の変革を一層促進するものと考えています。現下の国難とも言える状況に対応するため、住宅ローン減税や土地に係る固定資産税措置の延長・拡充など各種の対策を着実に実行することはもとより、新しい生活様式の浸透に伴うニーズの変化を的確に捉え、不動産取引のオンライン化なども含め、同ビジョンで掲げた様々な不動産政策を着実に進めてまいります。
坂本会長 不動産業ビジョン2030では「不動産のたたみ方など出口戦略」が課題とされています。人口減少を見据えた空き家・空き地対策は必須であり、地域に根付いた10万会員を擁する宅建協会組織として「みんなを笑顔にするべく」全力で取り組んでいきたいと考えています。同じくビジョン政策課題の「心理的瑕疵ガイドライン」が現在検討されており、賃貸・売買とも宅建業者の説明責任範囲をわかりやすく、不動産流通の円滑化に資するものとなるよう要望します。
菰田理事長 コロナ禍の拡大による人々の価値観や働き方、暮らし方の変容は、コロナ前から進んでいた不動産を取り巻く環境や求められる役割の変化を加速させています。我が国の持続的成長を支えイノベーションを創出する「場」であるオフィスについては、業種・業態・個々人の属性に応じて働く場を柔軟に選択できるようそのニーズに応えていくことが求められています。また、働き方の変化に伴って住宅に対するニーズにも変化が生じており、ストックとのミスマッチが拡大しています。建て替えや再開発などを通じて質の劣るストックを再生することで、良質な住宅循環を生み出し、カーボンニュートラルへの対応をしていくことが望まれます。こうした変化を的確に捉えた取組を推進することで、不動産業ビジョン2030に掲げられた「不動産の最適活用」を通じた価値創造の最大化を実現できると考えています。
馬場会長 当協会では進展する高齢化社会において高齢者が所有する不動産の適切な管理と処分を推進するため「不動産後見アドバイザー」資格講習会を実施しております。東京大学教育学研究科生涯学習論研究室と共同研究を行った成果のもと、法定後見・任意後見制度のほか、相続、信託及び居住支援などを扱っています。また、高齢者等への先進的な居住支援を推進している北海道本別町「居住支援協議会」に参加し、空き家現地調査及び住宅確保要配慮者の実情などについて研究を進めているところです。
原嶋理事長 不動産業ビジョン2030では、既存住宅市場の活性化・空き家等遊休不動産の有効活用を官民共通目標としています。当協会専属の研究機関として昨年設立した「全日みらい研究所」で「全日空家対策大全」としてとりまとめ、全国の宅建業者の地道ながら公益性に富んだ取り組みに光を当て、新たな公的支援制度を設けるなど6つの要望を示し、積極的な方策を検討すべきと提言しています。本年は大全の提言実現を目指し、東京大学不動産イノベーション研究センターと連携して多角的な分析を行い、その成果を広く社会に還元するよう取り組んでいきます。
山代理事長 不動産業ビジョン2030では、不動産業が「信頼産業」として発展を目指すことの重要性が再確認されました。FRKは昨年、50周年を迎えたことを機に、不動産流通業は「信頼産業」であるとの原点に立ち戻り、市場の発展に向けた具体的な提案を「FRK提言2020」としてとりまとめました。提言では、売主・買主双方の顧客の満足度向上をサポートすることこそが不動産流通業の発展の基礎となるという視点に立ち、われわれが目指すべき市場の姿を、「安心安全に取引できる市場」と「住宅への多様なニーズが充足される厚みのある市場」とし、その実現に向けた具体的なアクションプランを示しました。
塩見会長 不動産業ビジョン2030における最重要政策課題の一つである「賃貸住宅管理業者登録制度」の法制化が「賃貸住宅管理業法」成立という形で実現しました。当協会は、本年6月の業法全面施行に向け、登録事業者になるためのサポートや業務管理者の輩出に積極的に取り組んでまいります。合わせて、「不動産の最適活用」を実現するため、住宅セーフティネット制度への物件登録を促進するなど、高齢者や外国人などの入居支援にも取り組んでいきます。
2021.05.14