脱炭素ニューステージ、不動産各社対応続々

―再生可能エネ100%化へ、木造高層オフィスも建築

 気候危機が迫るなか、政府のカーボンニュートラル(CO2排出ゼロ)宣言を受け、不動産各社はSDGs・脱炭素関連の取り組みを進めている。背景には、環境経営に乗り遅れれば、ESG投資家をはじめとする各方面からの評価が得られなくなることへの危機感があり、対応のスピードは加速しつつある。

 使用電力を再生可能エネルギーとすることを表明したのが三菱地所や三井不動産など。地所は今年度から、丸ビルや新丸ビルなど、東京・大手町、丸の内、有楽町(大・丸・有エリア)のビル18棟と横浜ランドマークタワーのすべての使用電力を再生可能エネルギー由来に切り替え、来年度には、大・丸・有エリアすべてのビルを再エネ電力とする。対象となるビルの延床面積は今年度分で約250万㎡、CO2削減量は年間18万t。来年度、大・丸・有エリアの全ビルを再エネ化した場合、同社の再エネ電力比率は約30%となり、当初の目標を前倒し、かつ比率を高め達成する。

 一方、三井不動産は、首都圏で同社が所有する全施設において、30年度までに使用電力のグリーン化を実現する。対象は、オフィスビルや商業施設、ホテル、物流施設、賃貸住宅など120施設(現時点)。六本木や日比谷の「東京ミッドタウン」をはじめ、東京・日本橋の三井本館、日本橋室町三井タワーなど、25棟は先行的に取り組みを始め、来年度末までに電力のグリーン化を果たす。非化石証書などを利用し、施設共用部で使用する電力を再生可能エネルギーに切り替える。グリーン化される電力量は年換算約3億kWh。

 このほか、三井不は、東京・日本橋に木造の高層オフィスビルを建設するほか、グループの三井ホームは、東京・稲城市で木造のマンションを建築中。日本橋の木造ビルは、竹中工務店の設計で地上17階建て、延床面積約2・6万㎡の規模、木造建築としては国内最大・最高層の賃貸オフィスビルとなる。床・仕上げにも木材を使い、三井不グループが北海道に持つ森林を積極的に活用し、建築資材の自給自足や森林資源と地域経済の持続可能な好循環も目指す。同規模の鉄骨造オフィスビルと比べ、建築時のCO2排出約20%削減を見込む。また、三井ホームは稲城市での地上5階建てマンションを皮切りに、木造マンションブランド「MOCXION(モクシオン)」としてシリーズ展開する。稲城のマンションは、NLT(ネイル・ラミネイテッド・ティンバー)など新技術を多数採用、建設時のCO2排出量はRC造比で約半分に減少、炭素固定量はスギ2371本相当の160tとなる。

事業活動で消費する電力を100%再生可能エネルギーとする国際的イニシアティブ「RE100」に国内不動産業で初めて加盟したのは東急不動産。当初、2050年までとしていた再生可能エネルギー100%を、25年に大幅前倒しした。まず今年度、「渋谷ソラスタ」をはじめとする本社・支店などの5事業所と「広域渋谷圏」のオフィスビル、商業施設12棟の計17物件を切り替え、これによるCO2削減は年間9400トンを見込む。続いて、来年度には再開発事業など共同所有者との調整を要する施設を除き、ほぼすべてのオフィスビル、商業施設、ホテル・リゾート施設の電力を再生可能エネルギーに切り替え、全体の約60%を目指す。

 各社が環境経営に舵を切ったのは、政府の明確な目標設定に加え、ESG投資家の存在があり、今後は、取り組み次第で金融機関からの融資が優遇されるインセンティブが用意されつつあることもある。デベロッパーやビル会社を会員とする不動産協会と日本ビルヂング協会連合会は、「不動産業における脱炭素社会実現に向けた長期ビジョン」を共同で策定。特にCO2 排出量への影響が大きい設計・企画段階や運用段階において、ZEB・ZEH化や再生可能エネルギー設備の導入、省エネ運用などを示した。同ビジョンでは、環境に配慮した施工業者の選定や設備の高効率化改修など建物単体での脱炭素化策、地域でのエネルギー融通、Maas導入など街全体で取り組む脱炭素化策も挙げた。不動産協会では昨年、新築分譲マンションについて目標を設定しており、30年度をめどにすべての新築分譲マンションで「ZEH-Oriented」実現、先導的な取り組みを行うマンションでは「ZEH-Ready」を目指すとしている。

2021.10.01