東京八重洲・日本橋の商業地が10年ぶりの下落にーただし賃貸市場は健全を維持

 国土交通省がまとめた2020年第4四半期(2020年10月1日~2021年1月1日)の主要都市の高度利用地地価動向報告「地価LOOKレポート」によると、地価動向を調査した43地区(東京圏)のうち、地価が上昇した地区は6地区(前回0地区)、横ばいが26地区(34地区)、下落11地区(9地区)となった。コロナ禍でも地価上昇が見られた地点が増えた一方で、下落地点も増えている。

 コロナの影響で、区部では「歌舞伎町」「上野」が3四半期連続で「3%以上6%未満」の下落となった。このほか「銀座中央」「渋谷」「池袋東口」といった東京を代表する商業エリアも下落基調が継続している。店舗の売上減による店舗需要の減退が主な理由だ。ここで注目すべきはオフィス街である「日本橋」と「八重洲」が前回の「横ばい」から今回「0%超3%未満」の下落に転じたことだ。両地区の下落は2011年第4四半期以来、実に10年ぶりとなる。日本橋についてはテナントのテレワークの進展などからオフィスの空室率が上昇したことなどから、オフィス賃料が弱含みとなっている。オフィスワーカーが減ったことで、周辺飲食店などの店舗需要もマイナスとなり、地価動向が下落に転じた。

 オフィスはテレワークの影響が地価にも影響が及んでいる一方、賃貸住宅の動向はどうなっているのだろうか。総務省が発表した、住民基本台帳に基づく2020年の人口移動報告によると、東京都はこれまで続いてきた転入が転出を上回る「転入超過」が、去年1年間で3万人余りと前の年から6割以上減少し、去年7月から6ヶ月連続で「転出超過」となった。ただし転出超過の実数は東京の総人口からするとごく僅か。膨大なストックを抱える東京の賃貸住宅市場に与える影響は小さい。さらに賃貸住宅市場調査会社のタス(東京・中央)によると、コロナがいったん落ち着いた昨年10ー12月の時点で、東京の中央・港区などの都心エリアの賃貸市場は好転。1回目の緊急事態宣言解除後にテレワークを取りやめたり、頻度を下げた企業が増加し「オフィスはコロナ以前に比較し、昨年9月末時点で85%前後の人が戻ってきている」(タス)状況であるほか、「これまで転居を控えていた学生が、宣言解除後に転居してくる動きもあった」(同)ためとしている。現在は2度目の緊急事態宣言下にあるが、期限の3月7日を前に先行解除される可能性もあり、今後東京23区の中心部の市況回復につながるものと考えられる。もっとも景気を含めて地価動向などで価格が大きく左右される分譲住宅に比べ、賃貸住宅は遅効性が強い。住宅情報サイト・SUUMOを運営するリクルートによると「(コロナ禍でも)家賃は大きく変動しておらず、空室率にも変化は出ていない」(リクルート住まいカンパニー)としている。賃貸住宅は安定感のあるアセットであることが改めて証明された格好だ。

2021.02.26