~特集・虎ノ門麻布台プロジェクト始動(中)

世界レベルのオフィスビルや住宅を供給

―自然と一体化した村のような街を目指す

 「世界の都市間競争に勝っていかなければ都市は衰退する。国際水準のオフィスや住宅、そして今回の開発コンセプトでもある『グリーン』や『ウェルネス』という要素が東京にはまだまだ必要だ」。森ビルの辻慎吾社長は今回の再開発の意義をこう強調した。

 オフィスの総貸付面積は総延べ21万㎡超に上る。高さ330mのメインタワーの7~52階部分が中心で、基準階面積は約4300~約4840㎡と大空間を確保する。リーシングについて辻社長は「環境と一体となったオフィスは、他とは異なる強みを持つ」と自信を見せる。

 さらに「住宅はこのプロジェクトの最も重要な要素の一つ」(辻社長)。森ビルがこれまでに供給してきた住宅は累計で約3700戸だが、今回だけで1400戸を整備する。同社にとって「大きな挑戦」(同)だ。メインタワー、東棟、西棟の3棟の超高層棟に住宅が入るが、コンセプトはそれぞれ異なる。高さ330mのメインタワーの最上部には「ホテルブランデッドレジデンス」として90戸の「世界レベルの理想の住宅」が入り、居住者専用のラウンジやスパ、住戸ごとの専用エレベーターホールを用意する。低層部にラグジュアリーホテルを併設する東棟は14~53階が住宅で、「リゾートホテルに暮らすような住環境」を目指し、プール付き住戸や2層吹き抜けのリビングなどを設ける。西棟の6~64階も住宅で、約170戸のサービスアパートメントを含め970戸を供給する。

 ホテルは日本初進出のラグジュアリーホテルを誘致する。スイートルームの割合を多くし、大型スパも備える。客室数は約120室、標準客室面積は約60㎡になる予定。ミュージアムやギャラリーなどの文化施設も設ける。街のあらゆる場所にアートを展開し、美術館を持つ六本木ヒルズやサントリーホールを備えるアークヒルズと同様、「芸術・文化と街を一体化させる」(辻社長)考えだ。国際性も重視して、都心最大級のインターナショナルスクールを設けるほか、多言語対応の子育て支援施設や医療施設、スーパーマーケットを整備し、外国人も住みやすいようにする。

 開発コンセプトである「モダン・アーバン・ビレッジ」は、日本語にすると「緑に包まれ、人と人をつなぐ『広場』のような街」になる。森ビルで新規プロジェクトの企画を担当する大森みどり・都市開発本部計画推進部部長は「(映画などで登場する)近未来的な都市像というより、温かみがあって自然と一体化した村のような街にしたかった」と説明する。

 計画地は従前から住宅が多い土地で、新たに供給する住宅の規模も大きい。このため、他のヒルズとは異なり「暮らしや生活にフォーカス」(同)したのが大きな特徴だ。従来にはない、国際都市の洗練さと村のような親密さを兼ね備えた街を目指した。
 用途や機能の垣根を越えようとしているのも一つの挑戦だ。例えばオフィスやホテル、インターナショナルスクールの場所であっても、遊びや学び、フィットネスなどでコミュニティの場として活用することも可能。様々な使い方ができるシームレスな空間が至るところにあるという意図で、コンセプトに「広場のような街」という表現を使ったという。大森氏は「ここで、まだ解答を見いだせていない都市における自然のあり方や、新しいコミュニティのあり方も考えたい」と意欲を燃やす。

2019.08.30