~特集・虎ノ門麻布台プロジェクト始動(上)

辻・森ビル社長、ヒルズの未来形目指す

―逆のアプローチで「緑と広場の街」実現

 六本木ヒルズを延床面積ベースで上回る超大型再開発「虎ノ門・麻布台地区第一種市街地再開発事業」(東京・港区、通称・虎麻再開発)が始動した。地元の検討組織が立ち上がってから30年越しで今夏着工を迎えた。完成は23年3月の予定。総事業費は5800億円に上る。森ビルは参加組合員として300人の権利者とともにプロジェクトをけん引。開発コンセプトは「モダン・アーバン・ビレッジ」。緑に包まれ人と人がつながる〝広場のような街〟を目指した。

 「森ビルが手掛けてきた街は、その時代においてより良い都市を考え抜いた最先端の提案だった。虎ノ門・麻布台プロジェクトはこれまでのヒルズで培ったすべてを注ぎ込んだ『ヒルズの未来形』を形にする」。22日の記者会見で辻慎吾社長はこう意気込んだ。同プロジェクトは、総延床面積86万㎡、就業人数は約2万人、オフィス貸室面積は約21万㎡超、住宅の居住者は約3500人といずれも六本木ヒルズを上回る壮大なスケールの再開発だ。3棟の超高層建築物のうち、オフィスと住宅の複合棟の高さは約330mと完成時点では国内で最も高いビルとなり、最上階は東京タワーの先端と同等の高さの眺望を得る。規模だけ取ってみても東京に与えるインパクトは大きいが、森ビルを含む再開発組合がここで挑んだのは、時代の変化を先取りした「東京の未来の提案」だった。

 その意気込みは独特な配棟計画からうかがえる。8.1haという広大な区域のうち、2.4haを緑化し、区域の中心に約6000㎡に上る「中央広場」を最初に確保した。従来の発想なら、中心には超高層タワーを置き、残った場所を広場や緑地にするところだが、広場を確保してから建物を計画するという逆のアプローチで建築計画を立案した。3棟の超高層棟にオフィスや住宅などの都市機能を集約することで、足元に豊かな緑地を確保できたという側面もある。森ビルが長年にわたって提唱してきた開発思想「バーティカルガーデンシティ」(垂直庭園都市)を実現させた形だ。

 言い換えると、緑地内で働き緑地内に住むという「公園の中に街を作る」という発想。広大な敷地には商業施設やホテル、学校、文化施設など多様な施設があるが、各施設の垣根を設けずシームレスにつながり「街全体をワークプレイスとする」(同社)という新しい働き方の考えも盛り込んだ。東京にはあまりない24時間出入りができる大型公園としても機能させる。  手本のない街づくりを進めるにあたり、米国の著名建築家である故シーザー・ペリ氏率いるPCPA(超高層3棟の外観デザイン担当)やロンドン五輪の聖火台などを手掛けた英建築家・デザイナーのトーマス・ヘザウィック氏(低層部建築デザイン担当)など世界のトップクリエイターを集めた。複数の有名建築家を一つのプロジェクトに起用するのも異例だ。

 「ヒルズ」の歴史を振り返ると、「24時間複合都市」を目指した東京・赤坂のアークヒルズ(86年竣工)を皮切りに、「文化都心」を標榜する六本木ヒルズ(03年竣工)、そして虎ノ門ヒルズ(14年竣工)などそれぞれの時代のニーズに合わせた開発を行ってきた。虎ノ門・麻布台地区の立地はちょうどアークと六本木、虎ノ門の間に位置する。点在していたヒルズ同士が立地的につながれば、新たな文化圏・経済圏が形成されていく。森ビルの戦略エリア全体のマネジメントの観点からも虎ノ門・麻布台地区は欠かすことのできない重要な〝ピース〟となっていた。

2019.08.30