「五反田」、「田町・三田」のIT企業集積にみる職住近接のあり方

東京ではオフィスビルの入居率、および賃料の上昇傾向が継続している。その理由の一つに、都心部で活発な再開発の影響がある。新しい建物を建てるために既存の建物を壊すため、一時的にオフィスの床面積が減る。さらに再開発により新規供給される床は従前よりも賃料が高くなるほか、周辺の賃料相場をも引き上げる。再開発の余波で、上昇する家賃についていける企業は比較的規模の大きい企業だ。一方でITベンチャーをはじめとする、スタートアップ企業は、ビル探しに苦労することになる。そこで彼らは再開発がまだ活発ではない周辺エリア(サブマーケット)に集積する傾向が強まっており、品川区の「五反田」や、港区の「田町・三田」エリアなどが、こうしたベンチャーの受け皿となる「デジタル・ホット・スポット」(JLL)として注目を集めることになった。

 五反田、田町・三田の両エリアに共通するのは、羽田空港、および品川駅に近いという高い利便性だ。その一方で個人オーナーの築古・中小ビルがまだ多く、賃料は安い。渋谷では坪3万円を超えているのに、五反田は駅近でも坪1.5万円程度と格安だ。五反田は五反田駅周辺だけでITベンチャーが70社超は存在するとされ、シリコンバレーならぬ「五反田バレー」を形成しつつある。スキル売買の「ココナラ」、不用品売買の「ジモティー」、葬祭マッチングの「よりそう」など知名度が高まりつつある企業も多い。また田町・三田地区は、田町駅直結の最新複合開発「msb Tamachi」など、芝浦側に新しい街が出来つつあるが、丘側では再開発のスピードは遅く、狭い街路に中小ビルが残る。同エリアの特徴は慶応大学や芝浦工業大学などの大学や研究機関があり、特に慶応大は自前のベンチャーキャピタルを組成、スタートアップ育成に意欲的だ。こうしたイノベーティブな環境があることが魅力のポイントでもある。 

 職住近接も見逃せない点だ。創業間もないIT企業は、スタッフの就業時間が不規則になりがちであるため、職場近くに良好な住環境があることがより重要となる。三田駅および五反田駅は西馬込方面へ伸びる都営浅草線があり、さらに五反田には同駅を起点とする東急池上線という、地域に密着した都市型ローカル線が存在する。いずれの路線の沿線も下町の風情もあり、適度な生活利便施設も点在することがポイントだ。IT企業では福利厚生の一環として、職場周辺に住むと家賃を補助する制度が一般的。スタートアップは20代や30代など若い人が多く勤務しており、その多くは賃貸住宅を選ぶだろう。マンションをはじめとする不動産投資にも、これから成長するであろう、IT産業の立地特性を見極めることが必要になりそうだ。

(書き手=不動産経済研究所・記者 各務二朗)2019.08.30